
昨日も静かなル・ボナーでありました。
私たちは地道にカバンを作っております。
昨日、会ったことのないベルトを作って売っている独立系の方からメールで尋ねられました。
「価格を決める時、どうやって決めていますか?」と。
一般的には製造原価(工賃+材料費+メーカー手数料+etc・・・)に対して
流通費と販売営業費を加えて上代は決定します。
現在ではその掛け率もどんどん高くなっているようです。
アパレル系から販売される鞄は、もっとです。
その価格のお金の配分の内訳は、製造する人が40%以下(材料材その他も含めて)で
問屋が20%以上、小売店が40%以上となっています。
つまり一番汗を流す製造者には20%以下の金額しか入りません(材料代その他を出費するので)。
前にも書いたと思いますが、プロダクトアウトとマーケットインという考え方があります。
プロダクトアウトとは作り手の考え方や技術を我儘に小ロットで生産販売する時や、
作ってもらいたい人の希望をかなえるために一点モノを作る時などに、
この考え方に沿った価格設定がなされる。
合理的ではないけれど特別なモノを生み出す可能性。
車でいうとフェラーリやアストンマーチン、限定販売の万年筆なども。
カバンでいうとフルオーダーの一点モノなんかがそれ。価格は割高と感じる。
マーケットインは数を沢山売るためにデーターを元に適正価格を設定し、
その価格にするための生産システムを構築し取捨選択して合理的にモノ作りする時の考え。
車でいうとトヨタ、工業製品の多くはこの考えに沿ってモノ作りをしている。
良質な品が出来あがるのであれば、どちらが良い悪いという事ではない。
この違いが小さな腕時計と車が同じ値段だったりする。
マーケットインの考え方を推し進める場合、大量に作り売れる前提が必要です。
少ししか売れない革鞄などは、昔ながらの職人さんの家内工業的な
国内生産に頼ったままの業界の体質なので、
プロダクトアウト的な考えでモノ作りしなければと思うのだけれど、
価格を決める問屋は、マーケットインの考え方で決める。
その価格にするための負担は小売店も問屋も負わず、製造者まかせ。
国内で鞄を作り続ける製造者は、ますます疲弊してゆきます。
こんな関係が続けば、日本の鞄作りの文化は小さくなるばかり。
私は「フラソリティー バイ ル・ボナー」で、
プロダクトアウト的手法での量産を試みました。
特に絞り技法のペンケースの場合は、
二枚の革を張り合わせた状態で機械絞り出来る職人さんは唯一で、
その老職人さんに希望の工賃でやっていただいたので、高め価格になってしまいました。
それでも予想以上の支持を得ることが出来て、
プロダクトアウト的な手法での量産の可能性の道筋が見えてきました。

独立系鞄職人の場合は上記のような既存の価格設定の手法とは違ってきます。
自身の表現手段として鞄を作り、収入の折り合いを後から考えている人が多い。
基本的に数を作る事の苦手な独立系鞄職人は、問屋と小売店も含み込むことで、
粗利益の割合を高めて鞄作りと生活の折り合いをつけている。
オーダーでの生産はその最たるもので、
1個のカバンのために型紙起こして、非効率な1本作り。
見た目よりは高いお値段になってしまうのも当然。
しかし作り人の工賃を加えて原価を計算してみたら、
価格は製造原価の1倍だったりすることもよくあることです。
これでは苦肉の策で小売と問屋部分の利益を加えた業態にしてもしんどいです。
私たちも長ぁ~い間気付かずにその形態でやっておりました。
少し量が作れる独立系鞄職人は、店舗維持と接客の負担を回避して、
問屋の役割を含んで卸しを直接する。その場合価格の決定は大きな問題です。
自身の生産力と損益分岐点の関係や、自身のブランド価値も含めて、
価格を決めていかないといけません。そして売る工夫もしないといけない。
この形でも私たちはやっておりましたが、仕入れていただく小売店の意向が強く、
それをコントロールできなかったので、大変でした。
小規模自営業者は特別でないと、立場は弱いのです。
これは作る製品の良し悪しとは関係ありません。
趣味で作るのではなくて、作りたいモノを作りながら生活するために
考えなければいけないことなのです。

50ミリ単焦点レンズでF氏撮影
私たちの場合は、念入りな打ち合わせをしながら何人かの量産職人さんや
フラソリティーの猪瀬さんに、私たちの創造する形を作っていただきながら、
自身の鞄作りと折り合いをつけて、ル・ボナーの世界を作っています。
売れる価格、売りたい価格の相克を吟味して、価格は決まります。
あとはその品をお客様が、価格以上の価値を感じていただけるかです。
全く知らない世界ですので、非常に新鮮な内容に感じました。最終的には顧客がどう思うのか。その点が一番大切なのでしょうね。高くても良いものは良い、安くても悪いものは悪い。これからも私達顧客のために良質な鞄造り、宜しくお願い致します。