
ル・ボナーにはミシンが3台ある。
1台は平ミシンで、もう2台はセイコーの上下送り半回転カマのTE-2という筒型ミシン。
量産をしないカバン職人の場合筒型ミシンが1台あれば十分仕事が出来る。
ル・ボナーで使っている筒型ミシンは2台とも現在製造していない半回転タイプ。
なのでこのタイプしか使われていない部品はストックが必要だ。
まあ私たちがカバンを作れない老いぼれになるまでは大丈夫な部品のストックはある。
私の知る限り筒型ミシンは半回転下送り~半回転上下送り~全回転上下送り~全回転総合送りへと進化していった。ただ進化と言っても大量に縫い続ける時に支障がおきにくくするための進化であって、ステッチの良し悪しは別問題です。
私は足踏みの下送りのミシンから、工業ミシンのベンツと言われる高価なアドラー社の最新の総合送りのミシンまで色々なミシンを使ってきたけれど、最終的にこのセイコーの半回転上下送りの一時代前のミシンが自分たちに合っている事がわかった。もうミシンはこれで最後までいきます。

この縫う革の上を走る2本の押さえの形状は原型をとどめておりません。
購入時のままの形で使うとステッチは安定してスムーズに縫えるのですが、ステッチ横に押さえ痕がしっかりつきます。押さえ痕をなくす工夫をし過ぎるとステッチが詰まった状態になってしまいます。そのバランスを考えながら縫いやすいように職人それぞれの好みで削ります。私たちは右の押さえを針の落下位置がはっきり確認出来るようにギリギリまで削り落します。縫う時不安定なバランスを感じますが、それは技術と気合でカバーして縫います。
下送りは痕がある程度つくのは我慢してしっかり送れるように調整しています。

半回転釜で小さなボビン。これが私たちの好み。
半回転カマはステッチの絞り具合が全回転カマに比べて強くてその具合が大好きなのです。
その代わり安定して縫い続けることが出来なくて、微調整しながら使うミシンです。
微調整する時ミシンと会話しているようで、それもこの上下送り半回転のミシンの魅力。
それとあまりメカニカルでなくて、昭和の雰囲気を持っている筒型ミシンなのも良い。
足踏みの鋳物の台に収まった下送りのミシンはレトロな風情がバッチリで私好みではあるのだけれど、実用と私なりの好みを両立するのはこのTE-2が良い塩梅。
愛せる道具を使って仕事出来る事は、機能が優れている事以上に楽しく仕事が出来て、出来上がった製品も豊さを内包してくれるはずと思っている。
フレキシブルポストミシンとか今までミシンでは縫えなかった形状も縫えるミシンが登場し、ミシンも進化している昨今ではありますが、私たちはミシンで縫えない部分は手縫いすれば良いと考えているローテク職人でこれからもいくでしょう。機械が進化すればするほど世の中には無表情な品が増えているように思うのは私が年をとったからかなぁ~。

ダレスバッグのトップのフレームの直角部分を縫うミシンは現在でも存在しておりません。
なので手縫いしかありません。ゆえに直角にこだわるボンジョルノです。
この頃よくハミと話すことがある。還暦越えたら手縫いオンリーのカバン作りに移行しようかと。
筒型ミシンで大きなカバンを縫う時、ステッチを凝視して手で支えながら縫うのが厳しくなってきた。手縫いだと時間はべらぼうにかかって高価な品にはなってしまうけれど、腕力はいらない。ただ年齢と共に手縫いのステッチにしても徐々に目幅の大きなステッチにしないと縫えなくなってゆくのだろうなぁ~。若い職人の人たちはまだ感じないだろうけれど、50歳を越えた頃から目の衰えを痛感しております。まだ経験と気力でカバー出来る範囲ではありますが、カバンの作り方を変えていかないと年齢重ねた時カバン職人続けられなくなるのではという恐怖心がよぎる今日この頃であります。
NC旋盤と昔ながらの旋盤を駆使して唯一、無二の精密部品を作っているところを見せてもらったことを思い出しました。
ドシロートでも、ミクロの違いが指先で触ってみるとわかるところが面白いと感じた記憶があります。
今回の話は、なかなか奥の深い話で、、共通するものがあり、大好きな話です!!!
道具は単純なのに京都開花堂の茶筒は、スーット落ちて蓋がしまる・・・・・
まったく同じ設計図からできるものが明らかに違う・・・
機械、道具、冶具は人がそれを使ってナンボ・・・
道具への象徴的な思い入れは、わかる人にしかわからないが、わかる人は居る・・・等々
Re:taka さん
道具は職人の手先の延長で一体のものです。そのフィット感が大事で、気持ちよく使える道具があると仕事もスムーズに気持ち良い。出来上がる品もその作る人の個性を伝えます。そんな道具と仕事出来る現状に満足しております。
ル・ボナー松本