
横浜のI氏から盆の休みを利用してお手入れで1年以上日々ビジネスの相棒として使われ続けているチョコレート色のキューブ・ブリーフが送られてきました。見てびっくり、I氏がお手入れ名人であることは知っていましたが、これほどまでにいい状態で使っていただいているとは思いませんでした。
タンニンなめしの革の場合、エージング(経年変化)という現象がキズや色変化を味と理解してもらえるのですが、クロームなめしの革の場合どんなになめしの良い革でも新品の時がベストで、その後傷や色変化を味と感じていただきにくい。大好きななめしがしっかりしたクロームなめしのシュランケンカーフにしても、味わいを深める部分は限定的で、発色の鮮やかさを長くキープできればベストだと思っていました。
それがI氏によってお手入れされたこのブリーフケースは、革自体少し痩せたとは思うけれど新品の時より豊かな表情を見せているではないですか。革の表面もクローム革でありながら控えめな艶が出ており、生き生きとしています。程よいお手入れがこの素晴らしい状態に仕上げているのだと感じます。
お手入れのし過ぎの場合、表面の色が薄くなったり革の新陳代謝を妨害したりする場合がありますが、このブリーフケースはそういった弊害も全然生じていない。革と会話しながら、日々付き合っているという感じを受けます。
ソフトな内縫いのカバンの場合、負担のかかる部分を芯材で補強して型崩れを防ぐカバンが多いのですが、その場合私たちは内縫い独特の豊かなフォルムが損なわれると思っているので、ル・ボナーの内縫いのカバンは芯材を極力使わず革の繊維の方向性を利用して負担のかかる部分は伸びない方向に裁断して型崩れを防ぐ工夫をしています。写真で分かるように取っ手の付け根から底の両サイドにかけてたわみが生じています。これは中に入る荷物の重みを伸びない方向の革繊維が頑張っている表れです。伸びる方向にとってしまうと、たわみは生まれませんが伸びてカバンが型崩れしてしまいます。美しい三角形のたわみです。

取っ手の付け根(根革)のコバの染料が薄くなっているのを磨き直すお手入れでの里帰りなのですが、まだまだ手を加えなくてもいいぐらいの状態です。コバを少し磨き直してご主人様にお返しすることにします。お手入れは私たちがするよりお手入れ名人のご主人さまに任せた方が良いようです。このカバンはI氏が現役で働いている間十分元気で寄り添い続けられるでしょう。ファスナーの交換や部品の交換という修理は生じますがそれは私たちにまかせてください。
こういった素晴らしい状態で日々使われているル・ボナーのカバンの里帰りは、私たちを幸せにしていただけます。そういったご主人さまのところに嫁いだル・ボナーのカバンは幸せ者です。
正直、適切にメンテナンスが出来ているか不安でしたので、見ていただいてのお墨付きに一安心です。選択したメンテナンス用品と鞄の相性が良かったと思います。この鞄を膝の上にのせた時の柔らかく包み込む感触は、本当に癒されます。忙しい日々の中で張り詰めた神経がフヮと緩んでくれます。これからも末永くお願いいたします。