革という素材が好きだ。特に質感に魅せられる。
生地などの素材に比べて厚みがあり、それだのに柔らかさ持つ質感。
この質感を最大限生かした革鞄を作りたいと望みながらまだ途上。
無理に成型したり、自身の稚拙な技術にはめ込むのではなくて、
革なりの表情に任せて鞄作れたらなんて素敵だろう。でもそれは大変難しい世界。
でもそんな鞄が作れたら何よりの至福の時。素敵な革に触れるとそんな事を思い描く。

H社指定のカラフルシックな発色がまず印象に残るドイツ・ペリンガー社のシュランケンカーフだけれど、この手をかけた本シュリンク加工の質感は特別だ。
シボの立ち方がナチュラルで、シュリンク革と言っている多くの革が型押し併用で作っているけれど、このシュランケンカーフは本シュリンク。だから型押し併用だと感じる表面の硬さを一切感じない本物のシュリンクレザーの質感。

もう入手出来ないイタリア・フラスキーニ社のクロームなめしのカーフ革。
このしっとりしたタンニンなめしのような肌触りでありながら、締まっていながらソフトな質感の10年ほど前までのフラスキーニ社のクロームなめし革は特別だ。
唯我独尊、独特のなめし技法を駆使したフラスキーニ社の特殊なピット槽はもうない。
今は多くのヨーロッパブランドの希望に沿った顔料厚塗りの革しか作っていないタンナーになってしまった。ネットリシットリのイタリアンカーフはもう新しく作ろうと思っても作れない。
強烈なアンモニア臭を持ったそんなねっとりしっとりのフラスキーニのイタリアンカーフはル・ボナーの革棚にまだ少し眠っている。イタリアンカーフの残り香。

ペリンガー社のボックスカーフ系のクリスペルカーフ。
無表情だけれど特別な革だ。作り手に「私を旨く料理出来るかな?」と問いかける。
作り手の腕を試そうとする革。最上級のクローム革は深く侘び寂の世界。
日本のある靴職人がこのボックスカーフを使って靴つくったらシワが出やすくて、デュ・プイ社のボックスカーフの方が良かったと言っていたそうだ。確かになめしがしっかりしている分締まっていて革の方向を意識して裁断方向を配慮しないとシワが出やすい靴になってしまうだろう。でも革の方向考えて裁断して作れば珠玉の靴になるはず。私はこの革が現在知っている革の中で最上のクローム革だと思っている。

私は貴重革、特に哺乳類以外の革は好みではない。
希望があれば作るけれど、その良さはあまりよくわからない。
今回も頼まれてこのクロコを入手したけれど、好きにはなれない。
なぜなのか。きっと触った時の質感に違和感を感じているのだろ。
高価です。迫力あります。でもソフトクロコでも硬い感触。
革自体が個性強い革はカタチにすればそれだけで表情が出る。
けれどなめしの良いクロームなめし革は無表情で作り手を試す。
「私を旨く料理出来ますか?」と。だから面白いし永遠の自己嫌悪と背中合わせ。
良い革は耐久性があるとか複雑な加工をしているとかいうより、
作り手(タンナー)の思い入れが質感から感じれる革だと思っている。
その思い入れをバトンタッチされて、ストレートにそれを伝えるカタチに出来ればそれが何より。
でもそれがうまくいかなくて悩み続ける鞄職人が此処にいる。
しかしそんな苦悩という快感を与えてくれる革が少なくなってきた今日この頃。
おはようございます。
久しぶりに革の画像と革のお話とても興味深く読ませていただきました。
やっぱり革って良いですよねえ。
触っているだけで落ち着くような気がします。
Re: たなか さん
クリスペルカーフのグラスはその後どんな感じでしょうか。あのブリーフケースは特別だと思っています。
革って良いですよね。やはり一番好きです。
ル・ボナー松本