
20年ほど前に作ったトランクが修理で里帰りです。
このトランクを作っていた頃は、まだヨーロッパの革は使えなくて、
アメリカ原皮の国産なめしのタンニン革を使っていた。
それが災いして革の表皮は瀕死状態。
でもトランクのようなハードケースは表皮が死んでも、
柔軟性が必要な部品を交換すれば使い続ける事が出来る。
ベルト2本とハンドルをブッテーロ革使って修理します。
最初はコンビ風になるけれど、使い込めば同化する。
このトランクの持ち主は女性で、
自分の絵をこのトランクに詰め込んで行商で全国を旅し、
風雨にさらされながら共に思い出作った相棒。
トランクに刻まれた傷やシミの一つ一つが愛おしいと言う。
ハンドルとベルトをそのまま使えればその方がいいのだけれど、
旅の途中で切れたりすると困るので交換修理と相成りました。

東京の池袋にあった鞄屋さんにあったこのトランクに一目惚れして入手したけれど、
誰が作ったかなんて知らないまま使い続けた。
修理したいと思って、内側に縫い付けてられた「アウム」のラベルを頼りに、
ネットで探してル・ボナーに辿り着いた。
「アウム」は12年前まで使っていた屋号。

「オヤジの作る鞄は、ラフだけれど誰も真似出来ない味があるんだよなぁ~」なんて、
職人の私に対してけなされているか褒められているのか分からないけれど、
同業者によく言われる。その象徴的な鞄が、私の作るトランク。
だから今日の夕方、キャリアに括りつけてゴロゴロ持って来たトランク見て、
すぐに私の作ったトランクだと分かった。
昔恋した女性に何十年振りかで再会した時に感じるドキドキ感と似た感覚を、
このトランクと再会して感じるボンジョルノ。
良くなめされた革をお手入れしながら素敵にエージングしてゆくのは素敵だけれど、
傷付きシミが付き朽ち果てながらも、それを思い出のキャンバスのように愛せる付き合い方も素敵じゃありませんか。
鞄作り続けて30数年。
愛情持って使い続けてもらっている私の作った鞄との再会は、
鞄作り続けていて良かったと心底思う瞬間。
思い出のキャンバスは残しながら、心を込めて復元します。
ラスポンチャスから来ました。
はじめまして。
このトランクは思い出と作品とキモチがたくさん詰まっているんですね。
里帰りから帰って来るのを私も楽しみにしています。
Re: c さん
本体のやれ具合は残しながら、倍の年月以上頑張ってもらえる復元作業をしたいと思っています。
ル・ボナー松本